海水浴での楽しみ方は...
大きな熊手
【2004年6月記載】
ここ十数年思い描いている夢がある。ふるさと島根の浜辺でアサリを両手に掬いきれないくらいに掘り当て、家族みんなでその身の締まった新鮮な貝の味を楽しみながら、美味しく食べている。そんな風景を思い浮かべてしまうのである。
毎年夏の帰省時には、実家の近くの浜辺で海水浴を楽しむのだが、そのとき決まって、アサリを数個見つけては持ち帰って食べている。日本海は波がきついので、泳ぎだしてもすぐに疲れてしまい、ただ海に浸かっているという状態になってしまう。そう、単に海の中で立っているだけという状態がほとんどなのである。そのときたまに足の裏に貝が当たり、それを持ち帰っているのである。ただし、岸辺のあたりは少しくらい砂を掘っても、なかなか貝にはあたらない。ちょうど泳ぐのに適した深さ1m程度にならないと、貝には行き当たらない。しかし1mの深さになると、そうそう容易く砂を掘り起こせるものではないし、たとえ貝を見つけたとしても、それを足の指先だけでつかんで拾い上げるにはちょっとしたテクニックがいる。場合によっては潜らないと拾えないので、ひと苦労する。だからこそ、この水深1mあたりはアサリの宝庫なのである。何とかしてこの宝庫を自分のものにできないものか、いつも帰省するたびに思うのである。
しかしこの貝の宝庫を手にする方法がないわけではない。およそ10年前、娘の同級生の家族数組で潮干狩りに行ったことがあった。そのとき私たちは小さな熊手で、貝を掘り当てていたのだが、Iさん家族は、1cm四方の格子穴の開いた籠状の掬い部を持った全長50~70cmの大きな熊手を手にして、ものの数十分でバケツ一杯のアサリを集め、後はのんびりとくつろいでいたのだった。そのときは、せっかくの潮干狩りなのだからもう少し掘り当てる楽しみを味わえば良いのにと思っていた。しかし今になってみれば、あの大きな熊手さえあれば、私の思いは現実になるのにと、大きな熊手に対する思いは募るばかりである。
ここ数年、ホームセンターへ行くたびに、そういった類の熊手を探しているのだが、なかなかお目にかかれない。インターネットで探してみるものの、全くそれらしき熊手には行き当たらない。Iさんと会う機会も少なく、たとえ会ったにしてもいきなり熊手の話には持っていきにくいので、それ以来大きな熊手は幻のような存在になってしまっていた。
ところが、先日ふと思った。
「そうだ、ホームセンターに商品展示はされていなくても、取り寄せ依頼をすればいいのだ。取り扱い量が少ないから店に置かれていないだけで、店員さんに頼めば何とかなるに違いない」
一筋の光明がさした感じがした。10年来の夢が現実になるのも近いように思えた。
早速、高の原で一番大きい近鉄ビックスに出かけた。店員さんを見つけて言った。
「あの、熊手か欲しいんですが。普通の小さなものではなく、50cmくらいの大きな熊手が欲しいんですが」
「あぁ、大きな熊手ですか。あるにはあったのですが、2、3年前にそれを取り扱っている業者とは取り引きを中止しました」
そうか、残念だけれど仕方がない。しかし夢はまだ壊れてなんかいない。次の手をどうやって打つか。夏休みは近い。


