よくある話だけれど、こんな上司が出世するんですよね

くじ引き

【2002年7月記載】

 我が社の業績は幾分持ち直しの傾向にあるものの、かつてないほどの経営悪化により、今年度は各種行事を見送ることが多くなっている。しかし奈良においては、毎年恒例になっている夏祭りを例年どおりに実施することが決まった。我が社の夏祭りは、日頃お世話になっている地元の人たちへのサービスという意味もあり、地域の人たちとの繋がりをきちんと守っていくという主旨に基づき、この時期敢えて開催することになった。したがって、できるだけ経費を節約するため、会場の準備や後片付けは業者に頼むことなく社員の手でやらなければならない。夏祭りは7月26日金曜日の夕方に実施されるので、翌日の土曜日は机や椅子の後片付けをすることになる。しかもこの日は休日となっており、後片付けを担当するのは休日でも出勤可能な部課長となった。人事の方から研究所へも後片付けの動員要請が2名あり、何とかして選ばなければならなくなった。

 無理やり企画という立場を利用して、各要素技術グループに振っても良かったのだけれど、やはりこういう誰もが嫌がることは公平にした方がいいに決まっていると思った。どうせなら少しでも楽しくなるように、みんなでお祭り気分でワイワイやった方が面白いと考えた。そこで、例年部課長会の幹事を選出する時に使っているくじを使用することにした。社内のネットワーク上で、対象となる人に自分の氏名を入力してもらい、コンピュータの乱数表を元に動員される人を選ぶのである。対象となる2人だけ選んでも良かったのだが、何しろ夏の暑い時期でもあり、もう無理のきかない年齢になっている部課長の中には、どうしても出社できない人が出てくる恐れもあるので、とりあえず補欠も2名抽選しておくことにした。さらに、もっと楽しく遊び心も付加して、さらには休日出勤となる人の労を所長にも認識してもらう意味合いも込めて、コンピュータによる抽選には研究所長にも立ち合ってもらえるように、所長のスケジュールにも予定を入れておいた。

 抽選の案内を出して2、3日経つと、ほとんどの人はきちんと入力してくれていたが、Nゼネラルマネージャーを含めて数人は未入力だった。やはり全員が揃わないとまずいので、抽選の日までに対象者に氏名を入力するよう督促の電子メールも出した。

 いよいよ抽選の当日となった。あいにく所長は会議が延びて抽選には立ち合えそうもない。やむを得ずNゼネラルマネージャーに立ち合ってもらうことにして、抽選のボタンを押してもらった。するとどうだろう、コンピュータの画面上に夏祭りの後片付け役として『Nさん』『Tさん』、補欠として『Sさん』『Kさん』の4名の氏名が表示されたのだった。

「あっ、Nさん当たってしまいました」
「あっ、ほんとうだ。Nさん大当たりですよ」
「どれどれ、あっ、NさんとTさんが当たりですね」
周りにいた連中が興味深そうに寄ってきて、パソコン画面を覗いて、半ば歓声に近いうれしそうな声をあげている。

「知らん、知らんぞ。これはまだ本番じゃあないんだろう?」
Nゼネラルマネージャーが声を押し殺すようにして、私に向かって言い出した。
「しかし、厳正なる抽選の結果ですからねぇ」
「何とかならんのか。わしは知らんぞ」
そのままNさんはその場から立ち去ってしまった。

 よりによって、ボタンを押した当人が選ばれようとは予想だにしなかった。ある意味では私のミスである。Nゼネラルマネージャーは当然自分は偉いと思っているし、何でわざわざ休みに出てきて肉体労働をしなければならないんだという思いを抱いているのは、その言葉の端々にも窺えた。しかし、同じ部長職の人は他にもいるし、一度決まった事は素直に受け入れなくては、周囲に与える影響は決していいものではないはずだ。副社長や所長への報告のためになら、平気で休日出勤を部下に言い渡しているのに、ボランティアに近い、何も評価の対象にならない事だったら一切協力しないというのはどうもいただけない。

 仕方がないので、補欠に当たったSさんのところに行って、休日出勤の要請をしてみた。当然、Sさんは私に尋ねた。
「どうして補欠が出ないといけないの?」
抽選結果を出して、
「これを見て下さい。一番目に当たった人が駄々をこねているんですよ」
「うーん、分かった。私が出ましょう」
「有難うございます。また何かの折りにこの埋め合わせはさせてもらいます」
とてもはっきりと承知してくれた。さすが奈良の人間だという思いがこみ上げてきた。うれしかった。

 その足で、二番目に当たったTさんのところへ休日出勤の了解をとりに行った。
「Tさん、休日出勤当たりましたのでお願いします」
「分かってます。さっきからの騒ぎで私が当たったのは聞こえていましたから、もちろん出勤しますよ。誰かさんと違って、私は卑怯者じゃあありませんから」

 どうしょうもない奴が奈良の準トップの位置に就いている。