オンラインショッピングが普及して間もない頃...まだハガキが効果的だった

貝取りジョレン その後

【2004年8月記載】

「あなた宛に有料番組サイトの料金未納のハガキが来ている。延滞金が発生しているって。心当たりがなくても、一度でもサイトにアクセスすると、登録がなくても自動的に料金が加算されると書いてあるけど、こんなことがあるの?」

「さっきの続きだけれど、サイトのログアウトが済んでなく、支払い連絡がないときは、裁判、ブラックリスト登録、給料差し押さえとか、物騒なことが書いてあるんだけれど。分からなければ誰かに聞いてみて」

社員研修所で、新しい商品開発の手法についての講座を受けていた午後の、眠気が襲う時間帯に、妻からのメールが入った。どうせ詐欺まがいの悪質な業者からのハガキに違いないとは思ったのだが、あながち絶対にありえないとは言い切れない。何かの拍子に間違って変なサイトにアクセスしたかも知れない。今までに全くアダルト系にアクセスしたことがないと断言できるだけの石部金吉金兜でもない。そう考えていくうちに、だんだん気持ちが沈んでいった。とにかくもう少し情報が欲しい。早く帰宅して、問題のハガキを見ないことには、どうにも気分がスッキリしなくなった。

急いで帰ると、妻も気分が悪いのか、少し表情がさえない。ハガキには想像していた以上に、料金未納のあらましが、整然としかも正当性があるかのごとく記述されている。住所も会社名も担当者名も、きちんと明記してある。記載してある表現自体は丁寧だけれど、内容はとても暴力的で相手の弱みを突こうとしているのがよく分かる。“最近多発している悪質な架空請求の業者ではありません”と記載してあるが、明らかにその悪質な業者である。

どうしようか、会社で同僚に聞いてみようかとも思ったが、体裁が悪いので少し戸惑ってしまう。
「今日はもう遅いからだめだけど、明日消費者相談センターに電話して聞いてみようか」
悩んでいる私を見かねてか、妻が言った。
「もう、変なサイトはこれから絶対見ないでね」
とりあえず、彼女にお願いすることにしたのだが、どうしてハガキが来たのだろう?インターネットで覗くだけでは、住所や氏名が分かるわけがないのに...と考えていくうちに気がついた。

「そうだ、貝取りジョレンだ。あのネットショップの名前少し変だとは思ったのだが..。“○○○ちゃん”という釣具店なんて、そこらへんのおっさんらしきネーミングで、そんな人がネット販売をするのも、冷静に考えれは変だ。料金体系だって、送料が明示されておらず、不明瞭な部分もあったじゃないか。唯一、インターネットと住所氏名を結びつけることが可能なのは“○○○ちゃん”だけじゃないか」
「1ヶ月前に注文した貝取りジョレンが犯人だ!」
思わず叫んだ。
「えっ、そうなの? 貝取りジョレンって、全く何もいいことなかったよなぁ、お父さん」
子どもたちが声をそろえて言い出した。
そのとおりだった。今回の貝取りジョレンは本当にいいところが何もなかった。ケチのつけられっ放しだ。

結局その夜は十分眠ることができなかった。私には何の落ち度もないと分かっているのに、悪質業者の影に脅かされ、半ば脅迫されているような気分になってしまった。今の煩わしさから抜けられるのなら、多少の金額がかかってもいいやというような気持ちにさえなってしまった。悪質業者が世に蔓延る理由が分かったような気がした。

翌日、妻のお陰で気分はスッキリした。
「昨日、同じような問い合わせがありました。ハガキは無視してかまいません。ただし、業者のリストに上がっている可能性がありますので、これからも同じようなハガキが来るかも知れないので注意してください」
消費者相談センターが、神様のように思えた。