石見神楽の思い出

石上神宮

【2011年2月記載】

Aさんが、島根県邑智郡出身で奈良のイベントクリエーターをしているNさんからのメールを転送してくれた。この2月19日土曜日に、石上神宮で石見神楽が奉納されるという。もしよかったら見学に行かれたらどうですかと。

幼い頃、毎年秋に催されていた町内の子ども神楽を舞っていたこともあり、是非石見神楽を見たいと思った。

私の育った島根県邑智郡桜江町川戸では、2学期が始まってしばらくすると、夕方の6時頃から8時過ぎまで、毎晩小高い山の中腹にある大詔刀命神社に小学生たちが集まって、神楽の練習をしていた。もちろん大人が数人がかりで指導をしてくれて、およそ2ヶ月間みっちり鍛えてくれた。そして勤労感謝の前日の夜には、神社の境内で神楽を舞っていた。

私の両親は教師をしていて、中国山地の山間部にある学校を定期的に異動していた。それで私は小学校の入学と同時に、この桜江町川戸に引っ越してきた。当時、仲の良い友達もいない中、周囲の状況があまり分からないまま、私は大人たちの勧めに従って神楽を舞うことになった。小学一年生で神楽の練習に来ていたのは私ただひとり。小学校の低学年で神楽を舞う子は少なかった。上級生に混じって、振り付けや台詞を教えてもらうのだが、半分以上の時間は持て余していた。夜遅いのでとにかく眠たかった。結局、一年生から六年生までの六年間続けることができた。練習の煩わしさはあったけれど、やはり神楽を舞う楽しさは、この上ない魅力だった。

神楽には役回りとして、神(シン)と鬼(オニ)があった。鬼の役は鎧に身を固め、面を被って、大きなアクションがあり、とても華やかに写った。しかし、私は専ら神の役が多く、いつも不満だった。四人舞いに始まり、神降ろし、天の岩戸と続き、塵輪、鈴鹿山、黒塚などがあったように記憶している。そして最後は鐘馗で幕を閉じた。とくに、神降ろしは私の十八番だった。

子ども神楽は、町内の大きなイベントであり、その中で子どもたちはヒーローとしてもてはやされたのだった。

そんな経験もあり、妻を誘って石上神宮に向かった。石上神宮は、天理市の東側、天理大学を東に数km進んだところにあった。参拝する人はまばらであったが、その構えは荘厳であり、樹齢何百年も経ったような樹木に覆われ、自ずと厳粛な思いを抱かされるような雰囲気を醸し出していた。境内には鶏が数羽ほど放ち飼いにされており、その中で一羽ほど、闘鶏のようにすさまじく頑強そうで、色艶の良い鶏が私たち人間にかまうことなく、悠々と闊歩しているのが印象的だった。

神宮の本殿で神楽が奉納されているものと思い込んでいたのだが、どうもそれらしき様子は無い。神主の衣装をまとった人に神楽の件を尋ねて見ると、少し躊躇しながら、参集殿にて今から神楽が奉納されるという。見学できるのかと再び問うと、見ることはできるという。それではと、参集殿に行ったのだが、そこには小さな舞台を前に、たくさんのお膳が並んでいて、すでに数十人の人々が座っていた。ここは氏子さんたちが集まって、神楽を楽しみながら会食をする場だったのだ。残念ながら今回は、石見神楽を見るのは遠慮せざるを得ないようだ。

しかし、それでもこの石上神宮に来れてよかった。風邪で延び延びになっていた初詣ができた。ゆっくり国宝の拝殿を拝むことができた。とても素晴らしいひと時であった。奈良にはまだまだ私の知らない場所や建物がたくさんありそうだ。石見神楽はまたいつか機会を見つけて、味わうことにしよう。幼い頃の思い出と一緒に。

<参考>

江津市観光協会のホームページ

http://www.gotsu-kanko.jp/07_kagura/iwami/kaguradan.html

川戸神楽社中

江津市桜江町川戸地区の有志による団体で、春には川戸若連中として「水神祭り」、秋には「秋祭り」で神楽を奉納するなど、地区行事の実行役となっている。川戸神楽社中の神楽は、六調子の神楽で、奉納神社の太詔刀命神社では7年ごとに大元神楽も行われている。川戸地区では、小学生による子供神楽も長い歴史を持ち、毎年11月の大会のために川戸神楽社中が指導に当たっている。

保持演目  四方拝、神降し、岩戸、弓八幡、鐘馗、堅舞、天神、恵比須、神武、鞨鼓切目、鈴鹿山、塵輪、大蛇