マンション建設予定地になってしまったけれど...代官山のオアシスだった
奈良県渋谷寮
【2004年6月記載】
渋谷から東急東横線に乗ってひと駅、代官山駅を降りると、今までの雑踏がうそのように、静かな住宅街になる。
さあて、どちらの方向に進めば目的の渋谷寮に辿り着くのだろうか。行く手には煌煌と照らし出されたオープンカフェが見える。もう夜も10時をとっくに過ぎているのに、この賑わいはなんだろう。住宅街には不釣合いな空間がぽっかりと浮き上がっている。これが東京の文化というものか。
昨日電話で予約しておいた今夜の宿泊先となる奈良県渋谷寮は、この代官山の駅を降りて1分足らずのところにあるらしいのだが、全く分からない。仕方がないので携帯電話を取り出した。
「あのぅ、昨日予約した○○です。いま代官山の駅を降りたところなのですが、渋谷寮が分からないんです」
「MIZUHO銀行の青いネオンが見えますか? そこを通ってまっすぐに行けばすぐに分かります」
電話に誘導されながら1分も経たずに辿り着くことができた。
「こんばんわ、お世話になります」
「ここに住所と電話番号を記入してください。部屋は3階の308号室で、浴場はこの先右手になります。11時までに入浴をお願いします」
部屋は8畳の和室、すでに布団は敷いてあった。思ったより広く、窓側の廊下には簡単な応接セットも付いている。しかし洗面はあるのだが、部屋にはトイレが付いていない。もちろん浴室もない。10時も半ばをまわったので、大急ぎで大浴場に向かった。事前にタオルは持参してくださいとの説明を聞いていたので、大浴場の設備に対しても別段期待はしていなかった。予想どおりごく普通の浴場であったが、誰もいない大浴場は快適だった。
部屋に戻って、応接椅子でくつろぐ。大きな窓からは中庭が臨めた。都会の中で緑を感じながら宿泊できるので、安心感が湧いてくる。
翌朝は特に急ぐこともなかったので、ゆっくり起きて、1階にある食堂へと向かった。すでに8時を過ぎていたのでお客は2人だけ、中庭を見遣りながらゆったりと朝食をとった。9時、フロントでチェックアウトをする。
「安い部屋をおとりすることができましたので、そちらの方に変えておきました。朝食が800円となっておりますので、全部で4700円頂きます」
奈良県職員が利用する施設なのだが、奈良県民であれば誰でも利用できる。職員と同じ料金で。いくらデフレ気味でホテルの料金が安くなっているとはいっても、一般のビジネスホテルに比べたら半額程度で済む。しかも一般のビジネスホテルに泊まることを思えば、多少のプライバシーはなくなるにしても、すこぶる快適であった。
知らないだけで、結構いい所はあるものなんだ。情報さえ掴めば。