環境が良くなった奈良高校の運動部は、とても強くなった...
平城高校
【2018年6月記載】
今年の4月頃であったと思う。高の原駅の前でビラ配りを見かけたのは。それは、「平城高校の閉校に反対する」という内容のものであった。あまりにも突拍子もない内容だったので、ことの真偽のほどを確かめたくなった。すぐにネットで検索してみると、これからの少子化に向けて、奈良県では高校の統廃合を進める計画であり、その中に平城高校の閉校もしくは他校との統合の案があがっているということであった。
奈良県立平城高等学校の開校は、私たちがこの街に住み始める1年前であり、これまでの40年近くに亘って、地域の歴史とともに歩んできたこともあって、とても馴染み深く愛着のもてる学校である。高の原の駅からは、歩いて7、8分の距離であり、敷地も広く校庭は野球2面がとれるほどで、体育館はもちろん、プール、テニスコート、武道場などの付属施設も充実している。隣り合わせに高校の敷地と同じ程度の平城2号公園もあり、自然に囲まれたとても良い環境におかれている。
比較的歴史の浅い学校ではあるけれど、このような立地条件の良さからか、学生に人気があり、県内でも上位に位置する進学校となっている。また、地域に密着した活動にも力を入れ、自治会や地元中学校との協力関係も良好である。平城高校の学園祭のフィナーレを飾る花火大会は毎年の恒例行事となっており、地域住民の楽しみのひとつにもなっている。このようなすばらしい学校が無くなってしまう。
しかし、私は残念でならないという気持ちにはなっていない。このまま平城高校が無くなって、跡地にマンションが建つとか、商業施設が来るというのならおおいに考えるかもしれないけれど、学校はそのまま残るのである。“平城高校”という名称が消えるのであり、高校としてはそのまま残るのである。それも“奈良高校”として。
奈良高校が来る。これはまたこれでものすごい衝撃である。子どもたちが通っていた奈良高校が、私の家のすぐ近くに移ってくるのだ。
奈良高校は県内の公立高校の中ではトップに位置する進学校であり、毎年京大に40名程度の合格者を出すなど、全国的にも有名な私立校である東大寺学園や西大和学園と肩を並べるほどの超難関校である。ただ、今の場所は市内の法蓮町にあり、最寄の駅である新大宮からは、徒歩で15分以上かかる。しかも山裾にあるため敷地は狭く、校庭も小さい。だから、部活も狭い校庭の中で、各部が入り混じって活動している。また歴史が古い分、校舎も老朽化しており、学ぶ環境として決して良いとは言えない。
それでも、奈良高校はとても人気が高く、県北部に位置しているにもかかわらず、全県下から生徒が集まってくる。そんな奈良高校が高の原に移ってくるとなると、思うに、今以上にさらにその人気は高くなるはずだ。第一、通学するのにとても便利だ。高の原駅は特急、急行の停車駅で、その駅から近いし、通学路も広い。学校の敷地面積は倍以上になるし、設備も充実している。住宅や公園に囲まれた周囲の環境はすこぶる良い。
この髙の原駅周辺には、東大寺学園もあるし、奈良大学もある。ショッピングモールのイオンもある。今、奈良高校の置かれている環境と比べると明かに違う。
なんとなく、奈良高校や東大寺学園があるというだけで、高の原のブランド価値が向上するように思ってしまう。奈良高校のすぐそばに住んでいるというだけで、ちょっぴりアドバンテージをもらった気分になってしまう。それだけのインパクトがある。
それが、この6月はじめにオープンになった。2022年に平城高校が無くなり、そのあとの校舎に奈良高校が移転してくるという。しかし、本当にそれでよいのだろうか。県教育委員会はこの決定プロセスを明確にしてはいない。それゆえに、奈良県教職員組合は、この計画が公表された後も、平城高校の閉校に反対する活動をしている。
奈良高校の老朽化対策や環境良化は必要であり、それには莫大な費用がかかることと、これからの少子化に向けての学校の統廃合は避けられないという現実を踏まえ、奈良高校の移転はしかたないとしても、それによって平城高校を閉校もしくは他校との統合で移転させるというのは、強引過ぎる感がある。平城高校を追い払って、そのあとに奈良高校が入る。早い話が乗っ取りではないか。地域に根ざした活動をし、それなりに進学実績も良い平城高校を、有無を言わさずに葬り去ろうとしているように見えてしまう。
奈良高校が来るのは嬉しいけれど、その論理に強者の驕りがあるようだ。普通に考えれば、奈良高校と平城高校が合併することにしたら良いのにと思うのだけれど、超人気校、県下トップの公立高校、その伝統を純粋に守ろうとするためなのか、他者を受け入れない姿勢には度量の狭さが見え隠れするようで情けない。
妻が言った。
「奈高が来てくれるのはいいけれど、将来、孫たちが奈高を横目で見ながら通り過ぎて、他の高校に行かなくてはならなくなるようで、あまり歓迎でいないのでは」
「平城高校くらいが、一番この地域には合っていると思うけど…」
どんな奈良高校が来てくれて、どんな奈良高校になるのだろうか。