全体を俯瞰するにも、感性と理性の両方の能力が必要。これは凡人でも努力すれば可能だと思う
天網恢恢、疎而不失
【2003年12月記載】
「天網恢恢、疎にして失わず」。天の法網は至る所に張り巡らされていて、目は粗いように見えるが何ものをも逃がさない。
すべてのことを掴んでいなくても、見た目は全てを網羅していなくても、100%何から何まで漏らすことなく抑えていなくても、すなわち見た目はザル状態であったとしても、ものごとを上手くやり通せることができるとしたら、これほど良い事は無い。否、全てを知らなければ、物事は上手くいかないという方が、間違っているのかも知れない。世の中全てのことを知ることができるわけでもないし、全てのことを体験できるわけでもないのだから。限られた情報なり、限られた経験からでも、目的とする成果を導き出すことができるというのが正しいのだろう。
私たちが通常の業務で、ある目的に向かってアプローチする方法として大きく2つのやり方がある。すなわち目標を感性的につかむか、あるいは理性に基づき論理的に道筋をつけていくか、のどちらかである。
今、当社技術本部において、ほとんど全ての決裁事項は技術本部長の承認が要る。例えば、技術本部傘下の研究所で推進するR&Dテーマは技術本部長の承認無しではスタートできない。もちろん渡航や100万円以上の開発投資等々も。また、事業部が開発する次期主力商品の製品仕様の決定権までもが、本部長の決裁による。これはこれで良いのだけれど、本部長はものごとの筋が通らなくては何事も認めようとはしない。自分が理解できないものはどんな些細なことでもOKを出さない。一つひとつ、何故、何故を繰り返し積み上げて、初めて全体を理解しえるのである。したがって、決裁にとても時間がかかる。それぞれの案件については、とても筋が通っていて分かり易く、なるほどと思うことも多々ある。しかし当社技術関連部門の決断過程を鳥瞰すると、個々がバラバラで全体としての方向性がはっきりしない。一体何を目指しているのかが分からない。一つひとつはそれなりに筋が通っているのだろうけれど、全体で見ると何も見えなくなってしまう。ロジカルにものごとを進めていくのは良いけれど、所詮理論的に進められることには限界がある。どうしても局部的にしか捉えられない。スピード感に欠けてしまう。
現在コンサル会社に新規事業立上げのプロセスを構築してもらっている。すべてが筋の通ったやり方で納得性を持たせようとしている。けれどどうしても物足りなさが付きまとう。論理的ではあるけれど、それが故、教科書的でハッとするものがない。不連続的飛躍がないので面白みがない。そして一年間やってこんなものかと思ってしまう。今までやってきたことの焼き直しであって、今までやってきたことの整理に過ぎないのだ。
だからといって、全体を掴める人がいるかといえばそうでもない。全体を鳥瞰しながらグイグイと引っ張っていくリーダーがいない。自分の感性だけでは大きな組織は動かせない。感性だけのリーダーシップではリスクは大きい。したがって、突拍子もない発想や今の仕事の枠組みではとてもできそうにない提案があったとしても、R&D現場での管理やしくみ、R&Dテーマそのものの提案があったとしても、今の状態では、それらの間には何の脈絡も見いだせずに、単発に終わり、当社としての持ち味は活かされることはないだろう。何かしら新しい息吹は感じるのだけれど、論理的でない。だから第三者に対する説得力も欠けてしまう。広く捉えようとしているのだろうけれど、これこそ全体像が分からない。全体としての筋道が分からない。いたる所に抜けや落ちがありそうだ。感覚的過ぎて理解できない。まさにザル状態になってしまっている。
「天網恢恢、疎にして失わず」...まず、感覚的にものごとを掴むこと。できるだけ多くの角度からものごとを眺め、多面的にものごとを捉える。いろいろな発想や多くの思考をちりばめる。できるだけ多くの所に、いたる所にポイントを置く。そしてそれらを見渡してみる。ここで論理的に繋がり合うものはないか考える。ポイントを結ぶ糸はないか探してみる。とにかく見て、考える。そこで何か繋がりを見いだしたらしめたもの。それらの繋がりを理由付けるロジックをはっきりさせる。ロジックがはっきりすれば、また足りないものも明らかになってくる。そうすれば有効なポイントが増え、天の網は完成する。広く大きく、しかも抜けのない天の網をつくることができる。感性とロジックの融合だ。