ネットワーク家電は未だ軌道に乗っているとは言い難い...あれから14年が経つ

空耳

【2011年5月記載】

「○○○さん!」
私を呼ぶ声に、思わず「はい」と答えた。

眠っていたようだった。まだ夜は明け切れていない。ベッドから起きてあたりを見渡した。ここは単身赴任先のワンルームマンションで、誰も直接私に声をかけることはできないはず。少なくとも玄関の呼び鈴を押さないと、室内とのコミュニケーションは取れない。確かに、はっきりと聞こえたはずなのだが、理論的にそれは無理なことだとすぐに気がついた。

空耳だったのか..。それにしてははっきりと聞こえた。男性の声だったのか、女性のものだったのか、それははっきりと分からなかったが、声ははっきりと聞こえた。とても不思議であった。

このところ、忙しい毎日が続いている。ネットワーク家電プロジェクトも大きな山場は越して、順調に進んではいるが、相変わらず次から次へと課題が出てきて、決してスムースに進んでいるとはいえない状況にある。したがって、依然として私にかかるプレッシャーも大きい。

今日は、2012年度の重点商品候補を副社長に報告する日である。ネットワーク家電の事業を進めていく上で、新しいビジネスモデルを構築していかないと事業としては成功しない。今までどおりの事業の枠内では、この新しい事業は成り立たない。そのような課題を副社長に認識していただき、トップダウンで新事業の枠組みを指示してもらおうと考えていた。そんな状態の中で、聞いた”空耳”だった。

そして副社長へのプレゼン結果は、と言うと、十分に私たちの考えを伝えることはできなかった。消化不良のままで、再度ボトムアップでの取り組みを継続していくこととなった。課題は私たちが抱えたままで、まだまだ続く..。

実際には聞こえていないけれど、確かに聞こえたような気がした。空耳とは何だろう。幻聴ということなのか。幻聴は、統合失調症によく見られる症状のようだけれど、病気ではない正常な人でも、特殊な状況下では一時的に経験することがあるという。

おそらく正常であろう私が経験したのだから、それを前提に考えれば、今、私は特殊な状況下におかれていることになる。ネットワーク家電を推進している責任のようなものがヒシヒシと両肩にのしかかり、押し潰されそうになっているのかも知れない。社内的にネットワーク家電開発のリーダーとして認知されてから半年になる。いくらかは先が見えてきたとは言っても、ネットワーク家電の開発体制が整ってきて、少しばかり楽になってきたと言っても、その間のストレスというものは相当に蓄積しているのだろう。だから、幻聴を聞いたのだ。心の奥底で、私の精神が弱ってきている。相当にタフなはずの私の精神が。

少し休まなければいけないけれど、そんな余裕はない。今できることは、「黄色信号が出ている」ことを認識して、しばらくは無茶をしない程度に少しばかりの無理をして頑張ることか。正念場だな。