38年間の家電製品開発を振り返って思うこと...
お掃除機能付きエアコン その2
【2024年6月記載】
商品に必要でない機能を付けて、高く売りつけるのは良くないことである。そんなことは誰にでも分かる。しかし、本当に必要かどうかは、買って使ってみないと分からないことも多い。また、商品を提供する側からみれば、喜んでもらおうとして付けた機能であり、それで商品の価値を高めたいと考えるのは当然であり、その結果として商品にたくさんの機能を付けてしまうことになる。だから、消費者としては、商品に付いている機能は、よくよく見極めて選択していかなくてはならない。
これまで、私は何の迷いもなく新しい商品の開発に取り組んできたし、数多くの新製品を提供してきた。それは世の中に貢献し、人のためになると信じていた。それが科学技術の力であり、商品をつくる企業の存在価値であると考えていた。
今、45年間に亘る私の会社生活で生み出してきた商品の数々を振り返ってみると、感じていたほどには、世の中に貢献してはいなかったのではないかと思うようになった。結構無駄なことをしていたのではないかと…。私が開発した商品のほとんどが社会に役立つ良い商品であったはずなのだが…。
私の開発した商品、特にこれは良いと自信のある商品を挙げてみよう。
・ネットワーク家電 →事業継続中
・ヒートポンプ搭載の洗濯乾燥機 →事業継続中
・均一加熱レンジ →事業継続中
・3連IHクッキングヒーター →生産停止
・ソフトダウンウォール →事業継続中
・石油ファンヒータ、石油ストーブ →ユーザーニーズはエアコンへ移行
・24時間風呂(循環温浴システム・ろ過装置) →生産停止
・ガス調理器(コンロ、グリル) →ユーザーニーズはIHCHへ移行
・座シャワー、簡易型座シャワー →事業縮小、継続中
等々。
しかし、これらのいくつかはすでに商品としては存在していない。機能そのものが必要でないとして自然消滅したものや他の商品に置き換えられていったものなどがある。調理器や給湯機などは、基本機能の性能アップで間違いなくお客様価値の向上に貢献してきたといえる。また、温水洗浄便座やガスメータ(安全装置)などは、提案した新機能が必要不可欠なものとなっている。しかし、無理やり?現行商品に新機能を付けようとしたものは、そのほとんどが無用のものとなっている。メーカーサイドからの押し付け的な機能付加では、長続きしない。極端に言えば、これらの商品は基本機能だけでいいのであって、そのほかの機能は必要なかったのである。その要らない機能を実現する為に、どれだけの人がかかわり、どれだけ多くの資金を費やしたことか。そして、そうした中で犠牲となった仲間も何人かいたのである。
振り返ってみると、私たちは何と無駄なことをしてきたのかと思わずにはいられない。たとえそれが今の社会システムや生活様式を築く上で必要だったとしても、通過しなくてはいけないものだったとしても、失った時間とエネルギーは大きかった。
私は良かれと思い、それが正しいと考え、商品開発をしてきたけれど、めざすところが少し違ったのではなかろうか。競争相手を凌駕する商品、お客様の気を引き付けるような商品、トレンドを先取りした商品、ちょっとした困りごとを解決してあげるような商品…いろんな特長付けをしてきたけれど、結果的にはあまり必要ではなかったものも多い。残念だけれど…。ただし、生活に不可欠な一部の家電製品、それも基本的な機能だけは、今も生きているし、これからも残っていくだろうと思われるのがせめてもの救いではある。
ICTやAIの分野も仕事としては、今しばらくは注目を浴びていくだろうけれど、家電と同じような道を辿るのではなかろうか。やはり人が生活していくのに不可欠なもの、すなわち少し地味だけれど農業、医療、教育はこれからも永く必要とされる仕事であり、これらに携わる人たちをもっと大事にしていかなくてはならないと思う。私たちは目先のトレンドを追うばかりで、次の世代の人たちの為になることは全く視野に入っていなかったのだと。
家電製品の開発を振り返りながら、そう思う。