高市さんの「働いて働いて働いて働いて働いて」は、気持ち的には分かるけど...
時間の使い方
【2008年9月記載】
午後9時少し前、そろそろ帰ろうかと机のまわりを片付け始めた。すると同じ開発センターのYチームリーダーが声をかけてきた。
「もう、帰るんですか?」
「あたり前や、朝早くから仕事をしているし、遅くまで頑張っても効率が上がらないからね」
「そうですね。○○さんは仕事が速いですからね」
少し、皮肉も混じっての受け答えである。が、とてもがっかりした。管理職がこういう発言をするというのは、いかがなものか。言いたい気持ちは分かる。素直な気持ちを吐露したのだろうが..。
仕事がたくさんあり、毎日、次から次へと仕事に追いまくられている。部下も出来が悪く、仕事がなかなか片付かない。上司のグループマネージャーが毎日夜遅くまで、ほとんど毎日のように深夜12時頃まで働いているので、帰りづらい。結局遅くまで仕事をすることになる。しかし、それにしてもレベルが低い。部下も仕方なしに付き合いで残業しているのではないか。仕事にメリハリをつけて、効率よく進めていくのが管理職の役割じゃあないか。それがこんな状態では、組織としての運営はできていないに等しい。
ところが、周りを見渡してみると、ほとんどの所員はまだ残業をしている。なにもYさんだけが特別なのではない。他のチームリーダーも同様にパソコンに向かって仕事をしている。朝8時前から夜の9時頃まで仕事をするのが私のパターンであるが、おそらく管理職の中で私が一番会社に居る時間が短いのではなかろうか。一日12時間、一週間では55時間、一ヶ月で210時間、そして一年間では2500時間も働く私が、まだ比較的時間に余裕のある方なのだから、あとは推して知るべし..。
Yさんに少しばかり尋ねてみた。
「毎日帰りが遅く、しかも度々休日出勤があったりして、新しい情報を仕入れる時間はあるの? 勉強する時間はあるの?」
「そうですねぇ。先日も本屋で、効率のあがる仕事のやり方などという本を手にしてみる事はあったのですが、全く勉強する時間なんてものは持つことができませんね」
そうなんだ。みんな仕事、仕事で追いまくられ、充電することができなくて、放電してばかり。これでは創造的な仕事ができるはずがない。ひと昔前に比べて、若い人たちが新しい技術、先進的な研究に触れる機会も極度に少なくなり、また若い人たちが自分たちで勉強会を開いて、互いに切磋琢磨している姿も見なくなった。社員、技術者のスキル向上は一体どうなっているのだろうか。人事的には、早い段階で経営者育成のプログラムは組めているのだが、肝心のものづくり技術力の強化には、全く取組めていないのが現実だ。メーカーがものづくりよりも経営ノウハウにばかり力を入れるようでは、少し心配になる。
企業(会社)と従業員(社員)の関係をうまく保って、長い目で人材育成をしていく必要があるにもかかわらず、目先の成果や評価にばかり関心がいってしまっている。グローバル化に伴い、より企業としての力が、特長が必要とされる時代に、どれだけ優秀な人材を抱えているかが問われる時代に、よその国では、よその企業では、個人レベルでの自己啓発に力を入れて、どこにでも通用するスキルを身につけようとする一連の流れの中で、このままでは取り残されてしまう。「商品をつくる前に人をつくる」といったわが社の精神はどうなったのだろうか。消耗しきった集団にならないよう、時間をうまく上手に使いたい。
参考【ラジアの理論とベッカーの理論】
年功賃金や退職金が「賃金後払い制度」であるとして、若年者(人件費<生産性)の中途退職は企業の損失とならないことを示唆するラジアの理論に対し、ベッカーの理論は、企業特殊的な人的資本投資が行なわれる中で投資回収以前(人件費>生産性)での離職は企業の損失となることを示唆する。

