良いものを適正な価格で売る...商売の基本だね
真珠のネックレス
【2005年2月記載】
宝飾品にはあまり興味がなかった。というよりもほとんど手が出ないから、あえて関心を示さないでいたと言った方が正しいだろう。しかし最近、妻が真珠のネックレスを欲しがるようになった。とはいってもそんな高価なものではなく、冠婚葬祭に使用するごく一般的なものである。はじめは適当なものを彼女自身が選んでくれると考え、そのままにしていたが、あるとき彼女が言った言葉が気になった。
「こういったものは、しっかりしたものを買っておいた方がいいのよ。同じような服装をしている中では意外と目立つし、それに、私だけでなく子どもも使えるのだから、少し無理をしてでも良いものを買うのが、結局は得することになると思うわ」
そう言われてみれば、そのとおりだ。良いものを買って長く使う。愛着を持って使う。これも豊かなくらしのひとつだろう。ここはひとまず、私自身の目で真珠のネックレスとはどんなものか見て、どの程度であればそれに値するのか、調べてみるのも悪くない。幸い、毎日の通勤に梅田やなんばを通るので、その手の店には困らない。何店か見て回ることにした。
真珠といえば、御木本幸吉であり、ミキモト真珠や田崎真珠がブランドとしては有名だ。早速心当たりを歩いてみた。まずは田崎真珠ヒルトンプラザ店にて、
「真珠のネックレスを見せて頂けませんか。それに真珠のことはよく分からないので、教えて頂けませんか」
「真珠の良し悪しには、巻き、照り、キズというものが大きく左右します。また、大きいものほど高価になっています」
「色による違いはないのですか」
「色によって価格が異なるということはありませんが、ピンク系が日本人の肌にはなじむ感じがあるので好まれています」
珠の大きさは、およそ7~8mmが主流で、価格は10万円から20万円、40万円、50万円と様々である。
日を改めて、田崎真珠ディアモール店で、
「大きさはどのようにして決まるのですか。やはり成長するのには時間がかかるのですか」
「大きさはアコヤ貝の中に入れる核の大きさによって決まります。ただし大きいものほど品質のいいものが取りにくいのです」
「同じ7.0~7.5mmの大きさなのに、どうして一方は18万円で、片や28万円と、値段が全然違うのですか」
「一見すると分からないのですが、これはキズの有り無しの違いなのです」
といって、ネックレスを棒状に伸ばし、左右の端を持って転ばせて、その違いを見せてくれた。安いものは、その回転動作により珠が飛んだり跳ねたりしている。よく見ると珠の大きさや形が不揃いで、珠の一部に凸凹がある。一度気づいてしまえば、もうだめだ。品質の悪いものには18万円の価値さえ見出せなくなる。
「よく比較してもらうために、あえて展示しています。お客様のご予算に応じて選別させていただきます」
そうか、よく分かった。でもあまりにも作為的に感じてしまって、もうここでは買う気がしなくなった。
また別の日のこと、出張の途中、時間的に急いでいたのでミキモト真珠は一瞥しただけでやり過ごし、阪神百貨店に行ってみた。
「ほとんどのものが10万円台なのに、このピンクのネックレスは7.0~7.5mmと小さいにもかかわらず、なぜ28万円と高価なのですか」
「あぁ、これは花珠なので高くなるのです」
少し年配の男性店員が答えてくれた。花珠というのは、巻きや照りがよく、キズの極めて少ない真珠のことを指し、希少価値のあるものを言うらしい。やはり良いものは値段が張るものだ。28万円程度は覚悟しておかなくてはならないだろう。
ここ1ケ月あまり土曜日出勤が続いているので、その帰りに妻と待ち合わせてネックレスを買うことにした。資金はわたしのへそくり10万円をベースに何とか遣り繰りすることにした。阪神百貨を第一候補にあげて、梅田の各百貨店を回ることにした。
まずは大丸百貨店。売り場には3名の店員さんが並んでいて、きちんと分かりやすく説明してくれる。これまでに幾度も真珠を見てきたので、商品の目利きが少し出来るようになった気がして、そんな目で見ると、花珠ではないけれど、良いネックレスが並んでいる。価格的にも7.5mmが18万円とリーズナブルで、もうここで買ってしまおうかとも思ったけれど、グッと我慢して、阪神百貨店に向かった。
阪神百貨店でも若い女性店員が丁寧に説明してくれて、じっくりと見ることが出来た。安いものは4、5万円程度のものから、高いものは50万円以上のものまで、例の28万円の花珠も含めて、たくさん並んでいる。
「こちらの商品はただいまセール中で、通常の2,3割程度はお安くなっています」
「でも花珠の方が、やはりきれいじゃないのかなぁ」
すると、分かりやすいように花珠のものや4、5万円の安価なものと一緒に並べて、比較して見せてくれた。
「お分かりのように、こちらの4、5万円のものは巻きや照りが劣りますが、花珠のものに比べてもセール中のものは見劣りしません。それに8mmと珠も大きく、見栄えはとても良くなります」
妻も身に着けてみて、気に入ったようだ。価格も10万円となっていて予想外に安い。セール中のものを売らないといけない、というノルマがあるのかもしれないけれど、再三花珠に興味あるという意思表示をしている私の言を振ってまで、安くて良いもの(少なくともそのときはそう思えた)を勧めてくれた店員さんに、ある種の良心を覚えた。阪神百貨店の信用度は急速に私の中で膨らんだ。
先日、日本橋で洗濯機の売り場を覘いたが、その時、通常のドラム式洗濯乾燥機の説明は全くしようともせず、およそその2倍もするななめドラム式洗濯乾燥機を売ろうとした店員の態度とは、180度違ったものであった。ななめドラム式は当社のヒット商品ではあるが、ほんとうにななめドラム式は価格に見合った良い商品なのだろうか。
良いものを適正な価格で売る。商売の基本である。


