自分の頭で考えるには文字と図表やグラフは必須であり、それは人類史上の大発明にあたると思うのだが...
科学的手法
【2009年7月記載】
ただ闇雲に考えるだけでは新規事業は創出できない。やはり過去の資産を上手に使った方が、断然効果的なはずである。いわゆる商品開発における科学的手法を用いれば、とてもスムースに新しいものを生み出せるに違いない。
我が社で一般的な研究開発に用いられている科学的手法としては、DPIM、TRIZ-DE、TRIZ、QFD、SWOT分析、アトリビュート法、オズボーン法 などがある。
私もこれらの手法については、その多くを学んで知っているつもりである。けれど、これらの手法を有効に使っているかというと、そうでもない。DPIMやQFDは知っているし、実践的に使ったこともある。しかし、完全には身についていない気がする。自分自身の思考回路にこれらの手法が入り込めていない。実際には、別なところで考え、そこでロジックを形成しながら、事業や開発テーマの企画をしている。手法はあくまで手法であり、自分のやり方は自分の好みで決めている。その際、学習した科学的手法の中で参考になる考え方ややり方は、取り入れようとはしているけれど、現実にはそれほどインパクトのある効果的なものはなかったと思っている。おそらく、周りの多くの人たちも同じような思いを持っていると推測できる。なにせ、社内全体が、やたらとそのとき流行の新しい科学的手法といわれるものに飛びつき、開発やしくみの中に組み込もうとする。しかしその効果のほどは明確にしないまま、2、3年も経つと次の新しい手法やしくみに食指を示しだす。これは研究開発だけに限らず、ISOやJQA(日本経営品質賞)といった経営マネジメントについても言えることだ。
やはり、これは間違いなのかもしれない。開発を手助けしてくれる青い鳥はいないのである。参考になるような、インパクトのある効果的な方法は、自ら探し出し、創り出すもののようである。少なくとも自分の仕事に合った、目的に合った方法は、自分なりにアレンジしなくてはいけないようだ。
科学的手法は知っておくべきである。しかし、それにすべてを頼るのではなく、それを学ぶ過程で、自分のものにしていく努力を必要とする。いろいろな手法を学んでも、そのままでは、役に立たないのであり、結局は自ら考え、切り開いていかないといけないことが分かる。
それでは、私はどんな方法で研究開発をしているのだろうか。どんなツールを使って、創造的な仕事をしようとしているのだろう。
実際には、白紙のノートに思考の地図を描いていく。まずは、思いついた項目を抽出し、それを繋ぎ合わせていく作業をする。その上で、意味のある、関連性のある事柄を図表やマップに表してみる。その図表やマップを基にさらに思考を重ねていく。使っているのは、文字と図表である。科学的手法とは言っているものの、だいたいみな同じで、文字と図表を駆使して分析や結論を得やすくしているものである。このとき、図表の描き方に工夫があって、縦軸と横軸に何をとるかがポイントとなる。
文字と図表やグラフは、人類史上の大発明にあたると考えてよいのではなかろうか。
最初の文字は シュメール人が紀元前3500年頃使いはじめたとされる楔形文字であり、これはとても有名である。しかし、図表が発明されたことについては、ほとんどの人が知らない。1786年にプレイフェア(William Playfair)という人が、初めて統計図表を使ったらしい。これは社会・経済データをグラフにしたもので、この人の社会的貢献度はすばらしく大きいといえる。私たちはこのツールを手に入れて、まだ200年しか経っていない。
人間の思考に、図表を持ち込むことはとても有効である。なのに、このところの研究開発の資料で、図表を見ることは稀である。グラフでものを語ることはほとんど無い。図表を使って理論の整理や思考の展開を図ることは少ない。パソコンを使って資料をまとめるときに注力することは、もっぱら資料のデザイン的構成や写真・イラストの入れ方である。一目で分かるという感性的な訴求を重要視して、思考の入る余地を塞いでしまっているのではなかろうか。
今一度、思考の手助けとなるような、図表やグラフを作成する仕事、図表やグラフで考える仕事に戻る必要があるのではなかろうか。