笑顔は人の心を豊かにする

托鉢僧

【2005年5月記載】

 若々しくて、なんといういい表情なのだろう。そのにこりとした笑みが、一瞬にして私の目に焼きついた。

その托鉢僧の微笑んだ先には、4、5年と思しきひとりの小学生がいた。おそらくその子がお布施をしたのだろう。これほどまでに嬉しそうな笑顔をここのところ見かけることがなかったので、思わず立ち止まってしまった。

土曜日の昼下がり、場所は近鉄高の原駅の改札を出てすぐの歩道橋の上。あたりは5月の日の光が眩しいほどに輝いて、汗ばむほどだ。かの托鉢僧は気がつくともう元の托鉢僧の姿に戻って、笠の中に顔を隠してしまっていた。そう、簡単には何者をも寄せ付けそうもない毅然たる姿で、お経を唱えだしている。先ほどの小学生は、その場所を去りつつも、2度、3度と振り返りながら、かの托鉢僧に向かって手を合わせている。

あぁ、お布施とはこんなに素晴らしいものなのか。お布施をしてもらった托鉢僧はもちろんのこと、施した小学生も幸せに思ったことだろう。そして、何よりもそれを目の当たりにした私自身が一番の幸せを感じたのだから、これ以上のことはない。

しかし、その感激を素直に表すことができずに、そのまま行き交う人々の流れに乗ってその場を立ち去ってしまった私に、悔いが残った瞬間でもあった。