日常のわずかな変化をつかめれば、新ビジネスが生まれる
鞄
【2014年2月記載】
近ごろ街中でとても目立つのが、コロコロ転がして運んでいる鞄、すなわちキャリーバッグだ。我が家では“コロコロ”と呼んでいるが、小振りのスーツケースにキャスターがついたもので、一昔前までは空港でしか見かけないものであり、その頃はスチュワーデス(当時はフライトアテンダントなどとは言わなかった)が颯爽と引っ張って歩く姿がまぶしく、恰好よかった。
ところが最近は、このキャリーバッグを引っ張って歩いている人がやたらと目立つようになってきた。特に鉄道で移動する際には、男性だろうが女性だろうが、老いも若きも、みなこれをゴロゴロさせて移動している。この頃は男性の鞄も少し変化していて、ボディバッグなども流行っているので、このキャリーバッグもひとつのファッショントレンドと言えるかもしれない。そういえば、最近はボストンバッグやショルダーバッグはあまり見かけなくなった。
トレンドだと言ってしまえば、それで済む。しかしそれだけではないような気がする。私たちを取り囲む環境の変化が、少なからず影響を与えているのではなかろうか。
私たちの持ち物は、最近とても多くなったような気がする。20年前までは、水やお茶を持ち歩くことなんて、皆無であった。それがペットボトルというものが出てきたからなのか、健康志向によるものなのか、とにかくみんなが水、お茶、そしてスポーツドリンクなど各種の飲み物を持ち歩くようになった。
また、一方で情報社会の進展により、だれもみな携帯電話を持ち歩くようになっている。さらにはここ数年で、携帯電話に変わってスマートフォンやタブレット端末などが主流になってきた。当然、使用頻度は高くなるので電源や充電器をはじめ他のアクセサリーも一緒に持ち歩くことになる。これも意外と重い。加えて、サラリーマンではパソコンも必需品となっている。私たちの携帯品は重くなるばかりである。
しかし、一方で、私たちの住んでいる環境はとても快適になっている。道がきれいになっている。道路はもちろんだけれど、歩道も歩きやすくなった。ほとんどが舗装され、都会のど真ん中では雨に濡れることもなくなった。土や砂、埃などもほとんどなく、靴でさえ汚れることはまれである。鞄を引きずって歩くのに抵抗感はない。
また、ユニバーサルデザインの考え方が浸透し、歩道に段差が無くなってきた。階段のあるところは、エスカレータやエレベータが設置されているし、これを使えば昇り降りの負担は全くない。どんな大きな荷物でも、どんなに重いものでも楽に運ぶことができる。コロコロを使っても、何の違和感もない。むしろ、一昔前のパイロットやスチュワーデスではないけれど、それなりにやはりカッコいい。
また、このキャリーバッグと同じく、よく見かけるようになったのが、サラリーマンのリュックサックだ。サラリーマンには手さげ鞄(一昔前まではアタッシェケースが主流だった)と決まっていたのに、最近はサラリーマンのリュックサック(バックパック)姿をよく見かける。背中に荷物を背負うのは、スーツ姿には似合わないと思っているのだけれど、それもいたる所で見かけるようになると、違和感は無くなってくる。それどころか若い人たちが背中に荷物をかついで街中を行き交う姿は恰好よく見える。先の持ち物が増えたことに加えて、健康志向により、通勤で歩く人が増えたことや自転車を利用する人が増えたことにより、リュックサックを使う人が多くなったのだろう。デパートの鞄売り場にもこの類の商品が数多く並ぶようになったので、一層拍車がかかっているのかも知れない。
実際私も通勤時には利用している。2、3年前までは、鞄を背負うことにすごく抵抗感があったし、事実片側だけで担いだり、手に持ったりしながら通勤していた。また、背負う場合は、ベルトはきちんと締めて、荷物が背中の中央にピタッとこなくてはダメだと思っていた。若い人たちのように、ベルトをできるだけ伸ばして、荷物が腰のあたりまで垂れ下がっているのは、だらしないと感じていた。いくら妻や娘が「それじゃあ、ダサい!」と言っても..。でも、今ではすっかり慣れてしまい、リュックサック姿で、せっせと通勤している。
世の中、変わっていないようでも、私たちの住んでいる環境は少しずつ変化している。それに伴って、知らず知らずのうちに私たちは道具やふるまいに工夫をして、適応してきている。スマートフォンのような劇的なパラダイム変化ではないけれど、ファッションのようなゆるやかな変化も、その内には大きなヒントが隠されているようで、注意して見ることや考えることが大切だ。

