商品開発や新規事業創出は布教活動のようなもので、それに向けての賛同者を増やすことがポイントだった...と今でも思う

プラシーボ効果

【2010年8月記載】

プラシーボ効果とは、薬効成分を含まない偽薬(placebo)をとてもよく効く薬だと偽って投与したとき、患者の病状が快方へ向かうことをいう。「病は気から」といわれるように、人の意識や気の持ち方によっては、病気の治療に大きな影響が出ることがわかっている。はり治療の効果もこの種のものではないかという説もあるくらいだ。病気の治癒に関しては、人間の精神面での要素がある程度のウェイトを占めていると言えよう。

お父さんのPSAの件に関しても、この要素が大きかったのではなかろうか。毎日一所懸命に人参ジュースを大量につくって、飲む。ひたすら完治をめざして、親戚の漢方医が言った言葉を信じて、姪の癌がこの方法で完治したという事実を励みにして、自分も絶対に治ると思い込んで努力する。精神的なものから肉体的なものへと、治癒する力が体の中から沸いてきたように思えてくる。

もし仮に、これが反対であったなら、どうであろうか。いくら効果が検証されている高価で、新しい薬でも、投与される本人や医師を含めた周囲の人々がそう思わなかったら、その効力はどの程度発揮できるものか疑わしい。そう考えると、薬と患者、そして医師を含めた周囲の人々、それらの意識がひとつとなって、めざす方向(完治に向けて)に、一丸となって突き進むことが、病気を治すための必要条件といえる。

このアナロジーは商品開発、事業活動にも言えることではなかろうか。新商品のネタ(新技術)と商品開発担当者、そして経営トップを含めた開製販の責任者たちの気持ちがひとつになることがとても大きな意味を持つ。今までの経験から考えて、この三つの要素が整わないと、新しい商品や事業は生まれてこないような気がする。この三つの要素を確実にしていくためにも、意識をひとつにするツールが、めざすべき方向性を明確にする道具が、そう信じ込むロジックが、絶対に必要なのである。

新規事業を創り出そうとしている私たちには要求されるのは、①ネタが良いこと、②技術が先進的であること、③事業として大きな成長性が見込めること、そしてこれらがより明確に誰でも分かるようにすること、④成功へのストーリーをはっきりさせることが大切なのである。そう信じ込ませるだけの力が、ある種の布教活動をしていく力が、要求されている。新規事業創出とは、新興宗教の普及活動のようなものなのかも知れない。いま人々(会社)は、新たな救いの手(新規事業)を求めている。今がその潮時だ。

みんながそう信じ込めるだけの説得力を持った取り組みロジックと、その実現に向けての決意と団結力が、確かな成功を約束してくれるのである。