個を尊重し伸ばす組織とは...試行錯誤は続く

大部屋

【2009年2月記載】

当社の技術本部では、約500名もの開発技術者が、新しく建てられた技術・品質棟に集まっている。特にメインの居室となる5階フロアには、300名もの技術者が席を並べて働いている。

このフロアはおよそ2500㎡で、全く仕切りというものが無い。いわゆる大部屋である。技術本部の組織としては、事業場扱いの大きな開発センターと研究所が四つと本部直轄の開発センターが二つほどこのフロアにある。おそらく組織の壁を無くし、コミュニケーションの促進と業務の効率化をはかるという目的で、そうしたのだろうが、今のところそのような効果よりも弊害の方が目に付いてしまうような状況にある。

みんなが集まってきて、初めて大部屋の意義が発揮できるとすれば、今はとてもそのような状況には無い。居室の事務机に就いている技術者は疎らで、5人に1人もいない。朝、出勤するとすぐに名札を裏返し在席表示にして、そのまま鞄を抱えて階下の実験室へと行ってしまう。実験室が居場所になっていて、実験室で業務のすべてをしているのである。実験とそのデータ処理や分析業務以外のことまで、すなわち本来なら居室ですべき伝票処理、技術調査や報告書作成に至るすべての業務を実験室でしていることになる。それほどまでに、居室というのは使いにくい場所ということなのか。いや、そうではない。事実、居室でしか仕事ができない私たちのチーム(特定の実験室を持たない)では、全員が居室にいるし、たまに実験をしても、データ分析やまとめは居室でしている。決して使いにくい場所ではない。にもかかわらず、ほとんどの技術者は実験室に籠もっている。技術企画グループで調査したところによると、この技術本部では技術者一人当たりの保有するパソコン(ネットワークにアクセスできるもの)は平均で2台だという。ネット接続のパソコンが実験室にあれば、ほとんどの仕事がこなせるのは当然である。周囲の人に気兼ねすることなく、上司から急な指示や余計な仕事が入らない実験室で、自分の世界に浸るのが楽に決まっている。事実、ほとんどの技術者が実験室にも立派な机を構え、パソコンや書籍それにコーヒーカップまで備えている。管理される方から言えば、まさに実験室は楽園で、大部屋の居室は敬遠するのが当たり前というのが現状である。

そうはいっても、全く居室を空にしているというわけではなく、昼におこなわれる連絡会では全員が集まることになっているし、グループやチームで居室に隣接したオーブンスペースで定期的にミーティングもなされている。そして、その際、そのまま居室で仕事をする人もいるので、ときどきは居室に人が多くなる時もある。

このような時に、特に感じてしまうことがある。グループやチームとして、組織としての独立性が認めにくいのである。7、8人のチームや30人近くのグループで仕事をしているわけであるが、メンバーの前で、チームリーダーがグループマネージャに叱られる、もしくはグループマネージャがセンター長に叱られるという場面に出くわす場合が多々ある。叱られ方にもよるが、叱る場合は感情的になり易く、普通はあまり見られたものではない。これが頻繁に続くとリーダーやマネージャとしての威厳が無くなり、あとで部下を指導しようとしても何となく迫力がなくなってしまう。

一方で、このようであるから、周りを必要以上に意識してしまい、感情はもちろんのこと、個性的なものまで出しにくくなる。当たり障りの無い、表面的な人間関係になってしまう。あまりドロドロしたものにはなりにくいので、良いといえば良いのだろうが、没個性的な組織となってしまい、何となく味気ない。

かように、人がいないとまとまりがつかないし、人が集まってもよくないとなると、一体大部屋っていうのは、なんだろうと考え込んでしまう。効率化を追い求めるあまりに、人間臭さと個性が失われた無機質的な組織になっているのではなかろうか。