住環境としては良くないはずなのに、寒いところに住んでいる人は豊かなのでは...

北に住む人

【2010年1月記載】

北に住む人は豊かだ。寒いところにはお金持ちしか住まない。そんな気がする。昨年の夏、北欧へ行った。急ぎ足の出張で、しかも会議ばかりであったから、その国の様子を詳しく見たり、感じたりしたわけではなかった。しかし、それでも少しばかり街の中を歩いたり、空港やホテルの往き帰りに、人々の服装や住まい、そして食べ物などを垣間見ることはできた。

街はきれいだ。東京や大阪のように、近代的な建築物が建ち並んでいるわけではないが、古い街並みをきれいに保っていて、気持ちが和む。街全体にトータリティというか、均一性があり、日本のような幾何学的な美を無理やり創り出している表通りとアジア的な雑然とした路地裏が共存しているようなアンバランスさはない。

飛行機や列車から見る風景の中にある家屋は、スペース的にもゆとりがあるので密集していないし、一軒一軒の造りが大きい。生活の豊かさを表しているように感じる。とにかく人や家屋が少なく、国全体にゆとりがある。

一番驚いたのは、オスロ空港で飲んだコーヒー。紙コップに入ったコーヒーがなんと一杯700円から800円もしたのである。いくら税金が高いからといってもこれはひどい。しかし、現実にこの値段が通っているということは、この国の人々はこれで納得しているのだろう。なるほど私たちのように、旅行や出張でこの国を訪れる人間にとっては高いと感じるのかも知れないが、この国に住んでいる人ならば、自分たちの福祉のために支払っているのであって、ゆくゆくは自分たちに戻ってくるお金である。今の暮らしだけを考えるならば、生活コストが高くてとても住みにくい。私たちが移り住んで、すぐにやっていけるとは思わない。けれど、10年、20年先のことも含めて、ライフサイクルで考えると、十分成り立つのだろう。

そういえば、北欧へ移り住んだという話はあまり聞いたことがない。今、経済的に困っている人はとてもここには移り住めそうもない。お金持ちの人しか北欧には住めない。

もうひとつ感じたことがある。夏の終わりに訪れたのではあったが、北欧はやはり寒かった。加えて風も強く、セーターを手放すことができない状態で、とてものんびりと一日中外で日向ぼっこなどして過ごすという感じではなかった。常に気候変化に対応して、身の処し方を考え、自らを守らなくてはならない。こんなところに勤勉でない、ぐうたらを好む人や知的レベルのあまり高くない人は、のこのことやっては来れない。少なくとも厳冬期にでも安心な、大丈夫でしっかりとした住む家を確保した上でないとやって来れない。貧乏人は来たくても来れないようだ。

北欧には移り住むための障壁が二つある。ひとつは高い税金、そしてもうひとつは寒さである。この二つをクリアする人たちしか住めないようになっている。貧乏人や知的レベルの低い人は住めない。一週間という短い期間であり、直感的印象でしか語れないのだけれど、北欧に住む人は、一様に豊かで賢そうな人が多かった。第一、黒人やアジア系の人はほとんど見なかった。黒人イコール貧乏人というわけではないけれど、事実その昔、貧しかった頃の黒人たちが流れていった先は北欧ではなかったのだから。

寒冷地に住む人は本当に豊かなのだろうか。日本国内でもこの話はあてはまるのだろうか。先般、総務省の調査で、住宅の広さを都道府県毎に比較したデータを目にしたのだが、北欧の豊かさに通じるものがそこにはあった。なんと、北陸地方の住宅面積は、全国でも抜きんでて広いのである。北陸は豊かである。そういえば、昨年北陸電力を訪問した際、特急サンダーバードの車窓越しに見た風景の中でびっくりしたのは、立派な家屋の多さであった。さらには、訪問先の北陸電力の方の話の中で、オール電化の普及率が全国でも特に高いことを改めて認識したのだが、百万円はするであろうこの商品を購入できるだけの資産があるということであり、この地方の豊かさを示す一例だと考えれば納得できる。

住みにくいところには、それなりの人しか住めない。長期スパンでものごとを捉え、理解することができて、ある程度の資産を持つ人でないと寒いところには住めない。もしかすると、私たちが今提案しようとしている新エネルギーシステムの商品を、一番受け入れてくれるのは北に住む人なのかも知れない。