京都、それは伝統文化と新しい生活文化の入り混じった味わい深い街

祇園祭

【2017年7月記載】

以前勤めていた会社のマーケティング部門から、相談を受けた。ホットチョコレートを作る機器のビジネスをしたいのだが、知恵を貸して欲しいと。しかし、すでに退職している身であるし、以前のように新しい事業を創り出すといったような仕事をしているわけでもないので、力になれるとは思わないと断ったのだが、あまりにも熱心に協力を求められたので、一度だけミーティングをさせてもらった。それが2ヶ月くらい前のことであった。

この時のミーティングでは、そもそもチョコレートを飲むなんて文化は知らなかったし、当然のことながら、これに関する見識もなかったので、十分役に立てたかどうかは分からなかった。

ところが、先日、再度その担当責任者から、機器開発に関する打ち合わせをさせて欲しいとの依頼が来た。乗りかかった舟でもあるし、断るわけにもいかない。私にできる最大限の協力はしてあげよう。どの道、今の商売には繋がらないし、また、私自身への負荷もかかってはくるが、今までお世話になったマーケティング部門の頼みである。ひと肌脱いで見るか。

しかし、それにしても、ホットチョコレートを知らないのでは話にならない。体験できそうなお店はないものかと、ネットで検索してみると、米国で有名なマリベルという高級チョコレートの日本店が、京都の三条にあるという。では、事前に味わっておいた方がいい。でないと話にならない。

ちょうどこの時期、京都は祇園祭の真っ最中である。7月の京都は祇園祭一色である。私の知っている祇園祭は、とにかく暑い時期に大勢の人が集まって、それほどおもしろおかしくもない山鉾を見て、疲れるだけ。そんなイメージが強かった。山鉾巡行は学生時代に見ただけであり、宵山も宵宵宵山あたりで、出張時にちらっと見学しただけで、なんとなく上っ面をなぞっただけの感覚であった。だから、私の中では、祇園祭は未消化であった。

近年、後祭りが復活し、山鉾の見学期間も長くなったので、この際、久しぶりにじっくりと見てみるのも悪くない。早速、妻を誘って出かけることにした。

同伴者がいると心強いもので、当日のスケジュールは完璧だった。妻の指示通りに、後祭りの宵山をめざして、朝早くから出かけた。午前10時過ぎだと、まだ街は完全には起き上がっていない。だから人出はそう多くはない。それでも、後祭りのメインとなる山鉾である大船鉾の拝観には、わずかではあるが行列はできていた。

この大船鉾は、後祭りの殿軍(しんがり)を務めるそうで、祭神はすだれ越しにしか拝観できず、鉾を飾る装飾品も厳重に展示されており、いかにも伝統行事という趣を醸し出していた。それでも、実際に鉾に乗せてくれるので、巡行時の景色は想像できて、擬似的に祭りの雰囲気は味わえた。

これだけの文化財を維持管理し、毎年祭りを催す力は、さすが京都である。今でこそ、豊かになり、日本の各地でいろいろな催し物が執り行われているけれど、これだけの歴史と文化を背負った行事はない。随所で観られる大花火大会も、とてつもなく規模の大きなものがあるけれど、仙台七夕祭りなど東北三大祭など、飾り付けや山車の規模はものすごいものとなっているけれど、奈良の燈花会や大阪のキャンドルナイトなど、灯りの多さはすごいものがあるけれど、神戸ルミナリエに代表される冬場の電飾祭りも、LED照明技術の進歩で鮮やかになっているけれど、ここ京都に濃縮されている日本の文化と歴史には及ばない。

祇園祭を観賞した後は、マリベルでホットチョコレートを楽しんだ。ニューヨークからのホットチョコレートという新しい文化は、京都の中にごく自然に溶け込んでいて、あたかも京都の一部に思えたから不思議だった。