上司の意向に副うように努力し、この時はそれなりに評価してもらったけれど...
何でも早い方がいい
【1997年4月記載】
新しい研究所体制になり、新所長の開発テーマヒアリングが始まった。今度新しく発足した社内分社の一つである当分社の副社長でもある新所長のヒアリングとあってか、従来になくとても緊張する。噂ではこの4月の新体制づくりでは充分所長の意向が反映できなかったので、10月くらいに事業部の再編と併せて、大きな見直しがあるという。もしそうだとすれば、今の研究室の構成だってどう変わるか分からないし、ましてや私の室長としての立場なんて、危ういものである。ここは生き残りを賭けて、しっかりとミスする事なくヒアリングを切り抜け、一応の評価はもらわなくてはならない。そう思うのも凡人の私としては当然の事だった。
"室長"という響きが心地よく、仕事はきつく辛いのに、その地位にしがみつこうとしている。室長という肩書は私たちのレベルでは自己顕示欲や名誉欲といったものを満たすのには充分であり、それに固執しかけている小さな自分に気が付きながらも、何とかその地位にしがみつこうとしている自分の考えや行動を正当化し、自分を大きく見せようとしているだけなのだが....。今回のヒアリングは私自身の欲のために、一所懸命にならざるを得なくなってしまった。
4月初めの研究所運営に対する新所長の考え方に基づいて、早速ヒアリングのストーリーを練る。何はともあれ、とにかく言われる事には従ってみる。最大限の知恵を絞って、如何にしてその意向に沿った準備が出来るか、開発テーマリーダー3人の知恵ももらって、何とか自分なりに納得できる内容に仕上がった。要は新所長の提唱するボトルネックR&Dの検討、すなわち研究室の全テーマについて現在の技術開発課題のうち何が一番クリティカルパスかを明らかにし、説明用の資料を統一して見やすくしたのである。しかしあまりにも新所長の意向に沿いすぎている様で、あまりにも新所長に媚びている様で、少しばかり気になる。こんな心構えでいたら、それこそヒラメになってしまうし、研究室のメンバーにも余計な負担をかけることになる。
けれど、おかげで所長には良く理解してもらった様だし、クイックレスポンスということで好評だった。ヒアリング時に出た質問に対して簡単に答えられるものについては、翌日機会をみて回答しておいた。トップは部下の反応をすごく期待しているもので、すぐにでも何らかの対応をされると嬉しくなるものだ。茶坊主みたいで嫌なんだけれど、所長の指示にはすばやく万難を排して対応するのが一番よい。しかも、できるだけ部下に迷惑をかけずに。
こういった対応をこつこつと積み重ねる事により、案外自分がこうだと思っている事よりも物事が前へ進んだり、成果が上がったりするのかも知れない。また、対応が早いということは、トップの歓心を買う面も多いにあるのだが、誰しも忙しく働いているのだから、早くしないと、気が付いた時にしないと、結局いつまで経っても出来ないことになりかねない。早くしたら早くした分だけ、完成度をとやかく言われる事は少ないから、とにかく早くやるに限る。あらためてそう感じた。
トップは自分の指示にすばやく対応し、自分の好みに沿った行動をとる者を、決してないがしろにはしない。多少出来は悪くても可愛くなるものだ。私だって自分の好きなものには、ついついのめり込んでしまうし、嫌な話は聞きたくない。人間、誰もそうなのだ。残念ながら、いい話や耳に心地よい話は何回でも聞きたくなるものなのだ。いけないけれど。