一度意識の中に入ると、言葉は躍動する
ホッピー
【2016年10月記載】
今の会社に移ってからは、東京へ出張することはほとんどなくなった。しかし、それでも年に何度か出張する機会はある。
今回は、上期が終わり下期に向けて、事業計画の推進状況を報告するため、東京にあるグループ会社の本社へ出張することになった。これにあわせて、東京オリンピックに向けての取り組みを、担当役員から教えてもらう機会をつくったので、久しぶりの宿泊出張となった。
当社はグループ会社の中でも業績が著しく良いので、事業計画の中間報告では特にこれといった指摘は受けなかった。社長もしっかりと準備をして臨んでいたので、自信を持って受け答えをしていた。全く問題なしである。順調に主要取引会社に入り込んでいけているので、しばらくは好調に推移していけそうである。
報告会終了後、池尻大橋にある当社の事務所にて、首都圏での来年度入社予定の新卒者内定式に出席した。そして、夜は社長および首都圏の責任者たちと懇親会をした。気分は上々である。社長の希望に沿って、“安くて旨い店”にいった。
なんと入った店は焼き鳥屋。安くて旨そうだけれど、狭くて煙が立ち込めていて、一発で服ににおいが染み付きそうな一杯飲み屋である。まぁ、私的にはゆっくり安心して飲めるのでGOODだったのだが...。
最初はいつものように生ビールでやっていたのだが、すぐに首都圏の責任者が“ホッピー”なるものを頼んだ。
「ホッピーって、何?」「新しい飲み物ですか?」
「あらっ、知らないんですか。昔からあるもので、みんな普通に飲んでいますよ」
知らなかった。初めて聞く名前の飲み物であった。黒ビールに似たもので、焼酎をこれで割って飲むという。ボッピー自身はほとんどアルコールを含んでいないが、発泡するので見た目は黒ビールだ。早速、私もホッピーを頼んでみた。少し苦味があって黒ビールに近い味がする。けれども全くコクがない。さっぱりとした清涼飲料のようだ。あまり美味しいとは思わないが、少し濃い味の焼き鳥にはうってつけだ。焼酎の量によってアルコール度も調整できるし、カロリーもそんなに高くはなさそうなので、何杯でも飲めそうだ。
こんな飲料があったなんて知らなかった。おそらく東京の食文化なのだろう。しかも大衆向けの、あまり上品とはいえないもの。当然、グルメ本なんかには載らないし、取り立ててメディアが特集するようなものでもない。しごく日常化されたコーラやラムネみたいな飲み物なのだろう。もちろん製造メーカーがわざわざお金をかけて宣伝するほどの付加価値の高いものではないはずだ。
翌日、新橋を歩いていると、「ホッピー」という文字が目に飛び込んで来た。今まで何度か通ったところなのに、全く気がつかなかった。
そして、帰宅し、いつものように一週間分の新聞を読み返していると、「ホッピー文化論」という本の紹介記事が目に付いた。
一度意識の中に入り込むと、言葉はとても認識されやすくなる。