バレンタインデーは過去のイベントになってしまったね
チョコレート
【2011年2月 team 89】
世の中の流れについて行けていない。それが認識できていない。情報が少ないとこんなになってしまうんだなと感じた。
毎年この時期になると、デパートはチョコレート売り場が活気を帯びて、とても華やかな雰囲気に覆われる。バレンタインデーだ。しかし、最近は一時期ほどの盛り上がりはないようで、人それぞれにその人なりの楽しみ方をしているように、私には思える。
会社でもその傾向はあるようで、「義理チョコ」などの遣り取りはほとんど無くなったと言ってよい。いちいち義理チョコを選んで買い求め、そして配る手間は案外馬鹿にならないのではなかろうか。受け取る方も、マンネリ化してきて、お返しなどを考えると、かえって煩雑で物入りになるだけで、何のメリットもないことが分かってきたのだろう。もらって嬉しいと感じる人も少なくなったようだ。ごく一部のサプライズを除けば。
要は、バレンタインデーは過去のトレンドになっているのである。特に義理チョコは、ここ10年来衰退傾向にあり、今はかろうじて、「友チョコ」や「逆チョコ」といった様な新商品で、業界としては売上の減少を食い止めようとしているばかりである。
そのような昨今、相も変わらず、せっせと義理チョコを配っている女性がいる。そのためか、毎年ホワイトデーにもなると、彼女の席はチョコやクッキーで溢れている。私もご多分に漏れず、ホワイトデー参加の一人ではあるのだが。
彼女は50才半ばの独身である。年老いた母親との二人暮しで、世の中のトレンドとは少し距離があるように思える。奈良の田舎からこの草津まで、片道2時間30分をかけての遠距離通勤をしている。ほとんど職場の戦力にはならないようであるが、定年までのあと数年間を一所懸命頑張っている。
職場も同じ建屋ではあるが、私が5F、彼女は6Fと離れており、最近は、ほとんど顔を合わせることは無い。ましてや会話を交わすことも無いのだが。それでも毎年律儀にチョコは来る。
今年も2月14日のお昼前のこと。エレベータで偶然に、Nさんと一緒になった。彼も彼女とは旧年来の付き合いで、私と同じ義理チョコ組みである。そのNさんが、
「○○さんも、チョコをもらいに6Fへ行くのですか?」
「えっ、何のこと? もしかして、Kさんのところですか?」
「そうだよ」
と、意外にも彼は嬉しそうに応えてくれた。
そうなのか。今年もまた配ってくれるんだなと少し煩わしさを覚えた。もうそろそろ止めにしようよと思いながら。そういった言葉を交わした後、自分の席に着いてメールを見ると、Kさんからのメールがあった。
○○様
こんにちは。寒いですね。お変わりありませんか。バレンタインデーのチョコ、準備したのですが、5Fへ行く用件がありません。6Fへ来られる事ないですか。ちょこっと寄ってください。
仕事で忙しくしているのに、取りに来いとはどういうことなのか。少し、上から目線じゃないのか。悪いけれど、Kさんの方が余程暇なのじゃないかな。いくら私が大部屋に居て、配りにくいといっても、Kさんのところも同じ大部屋だよ。だったらもう止めようよ。
その日は、特に忙しく一日中バタバタしていて、出張も入ったので、そのままにしていた。すると、翌2月15日の夕方に、再びメールが入っていた。
○○様
昨日の雪は帰宅時大丈夫でしたか。私は南草津の駅まで一時間以上かかりました。帰宅は9時頃になり、奈良も積雪でした。チョコ、私の居室の机上に置いておきます。時間のあるときに、取りに来てください。
それは無いだろう。その後出張が続いたこともあって、結局チョコは取りに行けなかった。正確には、取りに行かなかった。
年老いた母親と二人暮しで、しかもその母親には認知症があり、放っては置けない状況で、平日はもちろんのこと、休日も自由な時間をほとんど持ち合わせていない彼女は、世間からは完全に取り残されているのだろう。10年前の、否20年前の感覚でものごとを考え、行動しているのがよく分かった、哀しい出来事であった。分かってはいたのだけれど、私は彼女に十分応えてあげられなかった。

