チョットしたゆとりが見つけられれば、人生豊かになれるね
リッチな気分
【2004年7月記載】
当社の家電商品を支える新たな技術は何なのか。どのような技術に重点化し、開発リソースを投入していくべきなのか。当社の草津事業場で、丸一日をかけて将来に向けての技術を討議しあった。しかし、結論めいたものは何一つ出なかった。それを出すための新たな取組みを始めたばかりなのだから当然といえば当然である。でも、やはり疲れた。一日中頭を使い、事務局としてこの新たな取組みの是非をも含めて検討していたので、息を抜く暇もなかったからだろう。帰りはIさんの車で、南草津の駅まで送ってもらうことにした。今日の会議に出席してもらっていたS研究所のTさんと一緒に。
時刻はすでに6時をまわっていたが、陽が沈んだばかりで辺りはまだ明るい。このまま帰路についても良かったのだが、ふとかねてから考えていたことが脳裏を過ぎった。
「Iさん、ちょっと寄り道してみませんか。丁度Tさんも一緒だし、R大学のキャンパスを見学しましょう」
「私も在学中は京都のキャンパスだったので、ここは全く知らないんです。是非行きましょう」
TさんはR大学のOGである。サウスカロライナ大学でマスコミュニケーションの修士号をとったほどのチャレンジ意欲の高い30才の独身女性だ。3人で当社の南隣に位置するR大学へと向かった。
R大学がこの草津に移転してきたおかげで、辺り一帯は飲食店、ゲームセンター、ワンルームマンション等が建ち並び、最近富に活況を呈している。
大学構内へは何のチェックもなしにスムースに入ることができた。自動車で構内を一回りしてそのまま帰るつもりでいたのだが、どうせならキャンパスを散策してみようということになった。Iさんは何度もここの図書館に来たことがあるようで、構内の地理には明るかった。
「少し歩いてみましょう。大学生協もまだ開いているんですよ。そちらの方へ行きましょう」
建物は全てが新しく、構内はレンガがびっしり敷き詰めてあり、とてもゆったりとしてきれいだ。生協に立ち寄りR大学グッズを眺めた後、Iさんの勧めで、アイスクリームを食べることにした。
「昔懐かしい、王将のアイスクリームがありますよ。これにしましょう」
私は財布を車の中に置いたままだったので、ここはIさんに奢ってもらうことにした。アイスクリーム3本で、締めて180円。噴水のある広場に行って、食べることにした。辺りはいよいよ薄暗くなってきて、明治時代の電燈を模したようなレトロ調の灯りがついたキャンパスはとても静かで、時折行き交う学生たちも、ずいぶんとリラックスした感じである。
暑さも少しは和らいだけれど、日中のきつい陽射しの余韻がまだ感じられ、王将のアイスクリームは格段に美味しく感じられた。学生時代のゆったりとした時間の流れと少しばかり安っぽい楽しみが味わえ、遥に遠くなった懐かしさを僅かばかり覚えることができた。
ほんのちょっとした時間とお金が、これほどまでにリッチな気分を醸し出そうとは思ってもみなかった。とても素晴らしい寄り道だった。