その人の本来の姿や力量は現場でしか分からない。しかし、それが評価に反映できていないのが現実だ
本来の姿
【2010年9月記載】
燃料電池プロジェクトのKさんから、「ドイツのボイラーメーカと、燃料電池事業の協業を検討しているのだが、その際、双方で提案しようとしている新システムに関して、そのエネルギーコントロール部をどちらの会社が主導権を握るのかが、焦点となってきている。ついては、当社の技術的優位性を主張したいので、一緒にその会議に出てくれませんか」と、ドイツへの出張要請をもらった。会議は9月の上旬に、ドイツのボイラーメーカ、V社にて丸一日をかけておこなう。
Kさんとは、彼がガス会社営業をしていた20年前に知り合った。服装のセンスも良く、情報量も豊富で、当時私の上司である研究所長に対してガス業界の状況を報告する姿はいかにも営業マンといった印象であった。しかし、私としては、キザで格好つけの口先ばかりの人間のように思えて、あまり好きになれなかった。
今回は、Kさんが当社の交渉窓口として、V社との共同開発契約の締結に向け、技術陣を引き連れ、両社のビジネス範囲を明確にし、開発、製造、販売などの詳細内容を詰めていくことが目的であった。
会議は長丁場であった。その場で彼は、交渉内容の一項目ごとに慎重に考え、都度デシジョンしていった。英語は全く喋れないという彼だが、その姿は今までのチャラチャラした印象とは違い、当社を代表しているという自信と自覚が漲っており、とても頼りになった。
また、交渉に当たっての通訳として、インダストリー営業のFさんにお世話になったのだが、その通訳はとても分かりやすく、交渉内容もポイントを外さない的確なもので、双方の考えの違いや課題を明らかにしていくことができた。海外会社との交渉ごとは、共通認識に至るのがとても難しいと思われる中で、商品スペックの議論に至る段階までこぎつけたことは、評価に値するのではなかろうか。日常の英会話レベルでは、なかなか意思の疎通はできない。専門知識や専門用語が理解できていないと、また業界のトレンドや将来のビジョンまで、私たち開発者と共有化できていないと、ここまでの通訳はできない。会議に臨むFさんの姿は、とても活き活きとしていて、傍から見ていても楽しそうだ。
帰路、Kさんがつぶやいた。
「ここまで進んだのは、彼(Fさん)の力が大きい。ここではとても頼もしく、バリバリ仕事をやっているんだけれど、昇格試験で日本に帰ると、とたんにその力が見えなくなってしまう。彼、プレゼンはダメなんだ」
その人の本当の姿は、その人が生きている場所や環境でないと分からない。KさんやFさんの本来の姿を見ることができてよかったのだけれど、それが分かっているのはきっと現場の人だけなんだろう。
動物本来の姿が見られるということで、旭山動物園が話題になってから久しい。私たちは未だに社員一人ひとりの姿を見ることができずに今日に至っているのだろうか。