そこにはその役職に値しない自分の姿があった。惨めで残念な姿が...
醜態
【1998年5月記載】
とても不様な姿であった。今日は事業部と研究所が、年度始めに研究開発内容について互いに確認し合う会議、研究所にとってみれば事業部に対する報告会のようなものが催された。その席上で、担当する分野の開発テーマについて説明したのだが、報告者である私が、事業部からの質問に十分に答えられなかったのである。
事業部長「競合他社に同じような商品があるけれど、それはどんなものを使っているのか」
私「うーん、おそらく特殊な溶剤を使っているものと思います」
事業部長「この試験はどういう条件でしたのか、どこが従来とは違うのか」
私「うーん、たぶん部品を入れ替えてやったのではないかと思いますが」
事業部長「データ的にみると、そんなに良くなっていないではないか」
私「うーん、そうですね。これについてはもう少し分析してみます」
研究所長「きみ、そういう意味の無い、紛らわしいデータを提示するもんじゃあないよ」
(全くもって、頼りない説明者だ。こんなんでよくもこの会議に出れたものだ)こう思われても仕方のない、不甲斐ない状態であった。それこそ目から火が出る思い、穴があったらすぐにでも逃げ込みたいくらいの心境になった。
全くの勉強不足、準備不足であったし、また身のほど知らずであった。要はいい格好をしようとしすぎたのだ。この会議では室長が自分の研究室のテーマについては責任を持って報告しなければならないし、そういう報告ができないようでは室長としては未熟である、といった暗黙の規約みたいなものがある様であった。それをうまく利用して、室長として良くやっているという印象を与えようとスタンドプレーにはしったのだが、そんなにうまくは行かない。取って付けた様な内容で、現実の商品開発に会社生活を賭けている事業部の人たちに、納得できる説明など出来るはずが無かった。全くもって浅はかであった。
以前から、もう少し開発現場に入り込んで、その内容を理解し、的確な指示が出来るようにすべきだという忠告めいたことを言われたことはあった。けれど、”忙しい”を理由にそれが実行できていなかったし、他人任せにし過ぎていた。結局、企画屋さん的な、スタッフ的な、表面だけの開発リーダーに過ぎなかったのではなかろうか。せめてこういった類の会議で、自信を持って説明できるレベルには、なっていなければならなかった。
唯一の救いは、案外と周囲の人々が温かく見てくれたことである。事業部の主幹技師にしても、会議終了後これからの協力関係について前向きに言ってくれたし、研究部長も口では結構きついことを言いながらも、明るく奮起を促してくれた。企画部長も帰りにわざわざ寄ってくれて、間接的にではあるけれど元気づけてくれた。失態は失態として、名誉挽回に努力しなければいけないけれど、それが出来る環境が私のまわりには整っているらしい。先輩たちは有り難い。