これでは発明意欲もしぼんでしまうよ

知的財産権

【2005年1月記載】

 先日、青色発光ダイオード(LED)発明対価訴訟の決着がついた。中村修二教授が以前勤めていた日亜化学工業を相手取って行った青色LEDの発明対価を巡っての訴訟控訴審が、200億円の支払いを認めた一審判決から大幅に減額された6億800万円の支払いで和解解決したのであった。

この発明は、地方の一中小企業にすぎなかった日亜化学工業を一躍世界的企業に変え、しかもこの特許の独占使用権によって同社は1200億円あまりの利益を得ることができると言われており、職務発明に対する報奨のあり方に対する世間の注目度は高いものとなっていた。和解の条件として東京高等裁判所は、発明による利益の5%を中村教授の貢献度としており、これは日本経団連の奥田碩会長もコメントしているように常識的な線として、これからの基準となりそうである。

 今回の結果について、和解金額が多いとか少ないとかの議論はあるだろうが、組織における技術者の地位について、また特許報奨について、再考すべき出来事として大きなインパクトがあった。

いずれにしてもこういった創造性を発揮することでより大きな報酬が期待できるという事例ができたことは、企業における技術者の大きな励みになると考えられる。それこそ技術者一人ひとりが、持てる力を十二分に発揮させるべく、大いに研究開発に没頭することであろうし、ひいては職場の活性化にもつながり、企業としても発明による業績の向上というものも期待できるというわけである。

 しかし今回の件について世間の見る目は、どうも私の考えとは少し様子が違っていた。一審判決で出た200億という途方もない数値に幻惑されたのか、概ねマスコミの論調は中村教授に対してネガティブであった。会社の金と設備を使ってやった研究なのだから貰い過ぎではないかとか、お金を儲けたいのなら独立してやるべきだとか。そういうことを考慮してか、とりあえず落ち着くところに落ち着いたという感じになってしまった。

ところが、である。この状況の中、わが社はまったくどうしようもない愚挙に出たのである。全技術者を対象に、発明・考案等に関する新しい社内報奨制度についての承認をするようにとの通達を出したのである。しかも組織を通じて、早急に承認するようにと、念を押す徹底ぶりである。この新しい社内報奨制度とは、一言で表現すれば、「発明者貢献率を1%とする」というもので、世間一般の基準には到底及ばないものであり、技術者の意欲をそぐような内容のものとなっている。

何かがおかしい。わが社は知的財産権の重要性はどこよりもよく知っていると思っていたし、実際、特許出願システムやライセンス契約活動など、過去から知財に関する取り組みは同業他社より抜きん出ていた。社内的にも特許出願の重要性を謳ったり、それに対する奨励制度を充実させてきたはずである。なのに、この対応である。会社のトップもしくはそのスタッフは、本当に会社のことを考えているのか、従業員のやる気を考えているのか。疑問である。ごく普通に考えて、このような通達を出すと、技術者は「どうせ、特許を出しても会社が得するだけで、我々にはそんなに多くの見返りなんてないんだ」「無理して新しいことを考えてもしようがない。いわれたことだけ忠実にやっていればいいんだ」なんてことになりかねない。

おそらく、経営陣にとっては、特許報奨の額が巨大化することによる経営への圧迫が、真っ先に頭の中を過ぎったのだろう。だから、できるだけ出金を防げ、ということになったのかもしれない。しかしせっかく大きな変革点がもたらされたのだから、目先の利益にとらわれず、この機会をうまく捉えて、もっと積極的に使う方法を考えるべきなのだ。たとえば「発明者貢献率を10%とする」としたならどうだろう。これだけ会社は発明に対して評価してくれるとなれば、技術者は一所懸命研究開発に勤しむし、特許だって休日返上で書き上げるだろう。早々大発明なんてできるわけないのだし、もしそんな大発明ができたなら会社にとっても莫大な利益につながるのだから、ここは大盤振る舞いをすべきなのである。1000億円の利益が900億円になっても構わないのではないか。利益が無いのよりは...

せっかく今まで知的財産権は大事だと言って来たのだから、この期に及んで技術者の足を引っ張ることも無かろうに。