いい手法だと思っているのだけれど、未だに活かしきれていないのは残念...

ベイジアンネット

【2009年1月記載】

商品開発の成否は、いかにして顧客ニーズを捉えるか、新しい顧客価値をどうやって生み出すのか、にかかっている。私たちは消費者の動向や意識を調査、分析し、どのような人にどんなものが好まれるのかを明らかにしようと努めている。いわゆる、ユーザへのアンケートやヒアリングをして、そのデータからヒット商品につながるコンセプトなり、アイデアを導き出そうと試みている。

しかし、なかなかその答えは見つからない。これだけ情報が溢れかえっている世の中で、今までに知り得なかった新しい知見を得ることは、そんなに簡単な事ではない。にもかかわらず、この情報化社会の中で、相も変わらず、旧態依然とした手法で、モニターを集めてアンケートやヒアリングを繰り返しているのが現状だ。

新製品開発のキーは、「お客様の欲しいものを的確につかむこと」なのである。が、しかしお客様も、自分が何を欲しているのかは、分からない。なぜなら、今この世の中にその「欲しているもの」は無いのだから。具体的な形なりソフトとして、表されるのなら分かるのだろうけれど。そんな状況だから、お客様が何を欲しているのか、その行く先を想定できるだけでも、大きなヒントになるに違いない。

そう考えると、ベイズの定理は、面白い。古典的な確率論の定理で、今とても注目を浴びている。

ベイズの定理とは、どんなものか。

見分けのつかない3つの袋の中に、それぞれ「赤・赤」、「赤・白」、「白・白」の2つの球が入っているとする。今、1つの袋を選び出し、中から球を1つ取りだしたところ、赤球であった。残りのもう一つの球が白球である確率はいくらか。

普通に考えると、もう1個は赤球、白球のどちらかしかないから確率は1/2となる。しかし、これは間違いなのである。実は、残りの赤球、白球は対等の関係にはなっていない。「赤・赤」が曲者で、「赤a・赤b」、「赤c・白」と考えれば、残りの球の可能性として、赤cはなくなり、「赤a、赤b、白」となるので、残りの球が白である確率は1/3となる。

他の例をあげてみよう。クイズ番組を想定してみる。今ここに見分けのつかない3つの箱A、B、Cがあり、その中に1つだけ百万円の入っている箱がある。どの箱に百万円が入っているのだろうか。

まず、解答者に箱を選んでもらう。今解答者はAの箱を選んだとする。ここで、大きなヒントを与える。答えを知っている司会者が、残った2つの箱から百万円の入っていない箱を1つだけ取り除く。Cの箱を取り除いたとする。そして司会者は解答者に問いかける、「選んだ箱を変えるチャンスを1度だけ与えます。どうしますか?」果たして、解答者はAの箱を変えた方がいいのだろうか?それとも、そのままにした方がいいのだろうか?

箱は2つしかなく、どちらかに百万円が入っているので、どちらを選ぼうとも確率は1/2と思ってしまう。が、当たる確率は「A」と「B&C」を比較した場合、1/3と2/3になり、「B&C」の方が2倍の確率になる。ここは、当然箱を変えて、Cの箱にした方がよいことになる。

最初は同じ確率でも、新たな情報が入るだけで、状況は一変する。顧客情報をうまく処理していくと、お客様の行動予測の精度が上がってくると考えられる。

この定理を使ったベイジアンネットワーク技術を産業技術総合研究所で見学させて頂いたのは、もう2年も前のこと。第一人者の方に、その理論と応用を教わったのだが、いまだに、活かしきれていない。当社にも調査部門はあるのだが、具体的に活用するような事例がないため、あるいはそこまで考えが及ばないのか、必要と思っていないのか、着手にまでは至っていない。

が、何とかして、ベイジアンネットワークを活用した行動予測による顧客ニーズをつかむ方法を手に入れたい。